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8-13 結婚式 3

last update Last Updated: 2025-05-31 21:05:45

「とっても可愛いお子さんですよね? 今1歳くらいですか?」

修也は優し気な瞳で蓮を見つめながら訊ねてきた。

「い、いえ……この子……レンちゃんは今8カ月になったところです」

「ああ、そうだったんですね、すみません。赤ちゃんの年齢、僕にはぱっと見ただけでは分からなくて」

修也は恥ずかしそうに笑う。

「そうなんですか?」

(と言うことはこの人は独身なんだ……。結婚を約束した女性はいるのかな……?)

「すみませんでした。副社長の秘書になったのに、ご挨拶が遅れてしまって」

頭を下げる修也を見て朱莉は尋ねた。

「あ、あの……各務……さんでしたっけ? もしかして翔さんの御親戚か何かでしょうか?」

「ええ、そうです。僕は副社長のいとこにあたるんです」

「やっぱりそうだったんですね。どうりで翔さんに良く似てらっしゃると思いました」

「そうですね。僕の父と副社長のお父様は双子の兄弟なんですよ。似てるのは当然かもしれませんね」

「そうだったんですか!? 翔さんは一度もそんな話してくれたことが無かったので」

朱莉は離乳食を食べ終えた蓮の口元をガーゼハンカチで拭きとってあげながら修也を見た。

「……」

すると、何故か修也はじっと朱莉を見つめている。

「あ、あの……? どうかしましたか……?」

朱莉はあまりにも修也が自分を見つめているので、顔を赤らめながら尋ねた。

「いえ、とても愛情深くお子さんを育てているんだなって思って」

「そ、そんなこと……ありません……」

朱莉はますます頬を赤らめた。心臓はさっきよりもドキドキしている。

(私ったら一体どうしちゃったんだろう。この人は翔さんとすごく良く似ているのに……どうしてこんなにドキドキしてしまうんだろう……)

気付けば、朱莉は修也と見つめ合っていた。そして、そんな様子にいち早く気付いたのは翔であった。

「修也!」

突如、翔が名前を呼んだ。

「え? な、何?」

修也は驚いたように翔を見た。

「あまり……人の妻をジロジロ見るのはやめてくれないか?」

語気を強めて翔は修也を睨み付けた。

「あ、ご、ごめん。翔。そんなつもりは無かったんだけど」

修也はうろたえて謝る。

「翔さん。何もそんな言い方をしなくても……」

普段なら黙っている朱莉は何故か修也が責められるのが嫌で、つい口を挟んでしまった。

「朱莉さんは黙っていてくれ」

翔は朱莉を見もせずに答えた。

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